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魔がさして 「ブラック・ジャック」。

【2019年5月24日(金)】

 子どものころから、マンガはたいそう好きな子であったのだ、ボクはね。
 最も古いマンガの記憶は、友だちの家で読んだ貝塚ひろしの177.png「ゼロ戦レッド」(1961年~1966年)だったかな。
 滝壺を秘密基地にして出撃と帰還を繰り返すゼロ戦の姿がすごく印象的だったんだ。

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 コミックス(単行本)ではなく、連載誌だった 「月刊 冒険王」(秋田書店) の本誌と別冊付録でのことである。
 小学校就学以前のことだから、1964年よりも前のことなのだ。
 そして、これも友だちの家で読んだのだが、 「週刊 少年マガジン」(講談社) に短期連載されていた177.png楳図かずおの 「半魚人」 で、これは怖かったな。
 1966年、小3の時の記憶だとばかり思っていたのだが、連載年は1965年だったようだ。
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 マンガの神様などと、いまだに笑止な呼び名で呼称される手塚治虫だが、すでに1964年には単なる人気漫画家のひとりに過ぎず、おやつ代わりにマンガをむさぼる子どもたちにとっての人気作家は、下記の作家群であったのだ。
 それを証明するのが、177.png 「忍法十番勝負」 である。
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 この作品は、177.png 「月刊 冒険王」 に1964年1月号から10月号までの10回連載され、当時の超売れっ子マンガ家10人が覇を競った作品である。
 ストーリーは、戦国時代末期、豊臣秀吉が築いた大阪城に抜け穴があるという情報を入手した徳川家康が、配下の忍者たちに大阪城の抜け穴を記した絵図面を奪取するように命じ、この絵図面を巡って、豊臣側方の忍者と徳川方の忍者たちが繰り広げる忍術による死闘なのである。
 そして、この流れに沿って、毎号、10人の人気マンガ家たちが、短編連作の忍者漫画を描き継いで行くという超豪華企画なのだ。
 その10人の超売れっ子マンガ家とは、

 1月号 一番勝負 堀江卓
 2月号 二番勝負 藤子不二雄(のちの藤子不二雄A)
 3月号 三番勝負 松本あきら(のちに零士と改名)
 4月号 四番勝負 古城武司
 5月号 五番勝負 桑田次郎
 6月号 六番勝負 一峰大二
 7月号 七番勝負 白土三平
 8月号 八番勝負 小沢さとる
 9月号 九番勝負 石森章太郎(のちに石森ノ章太郎と改名)
 10月号 十番勝負 横山光輝

 である。

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 この作家陣の中に、神様=手塚治虫の名はない。

 繰り返すが、すでにこの頃から、手塚治虫だけが人気マンガ家だったわけではないのだ。
 そして、このことは、当時、現役のマンガ読みの子どもだったボクらが大人になったいま、(もっと正確にいうと、老齢期にさしかかったいま)歴史の証言者として、くどいまでに述べておかなければならない事柄なのである。
 そうなのだ、手塚治虫手塚治虫は、当時から神様なんかではなかったのだ。世間が何といおうと、ボクにとっては、それはいまも変わらない事実なのである。
 ところで、いろんなおやつ(マンガ)の中で、手塚治虫作品で当時、ボクが面白いと思えた作品は、
 177.png「ビッグX」 (1963/11~1966/2 「月刊 少年ブック」(集英社)連載)
 177.png「マグマ大使」 (1965/5~1967/8 「月刊 少年画報」(少年画報社)連載)
  くらいで、
 177.png「グランドール」(1968/1~1968/9 「月刊 少年ブック」(集英社)連載)あたりになると、ちょうどその連載時期は、少年マンガに劇画表現が侵攻してきた頃と重なっていて、手塚マンガの丸っこい流線は、絵柄もセンスも古過ぎて、子ども心に 「もう手塚は終わったな」 と感じた記憶が、いまも脳裏に鮮明に残っているのである。

 ところで、この作品の連載年である107.png1968年は、少年マンガの歴史にとっては、最重要年であり、手塚治虫は、1968年から1973年まで低迷期にあったという108.png夏目房之介氏の言説は、まったくもって現役のマンガ読みであった子どものボクの実感と一致しているのだ。
 そして迎えた1973年。この年、手塚治虫は、 177.png「ブラック・ジャック」(1973/11~1983/10 「週刊 少年チャンピオン」(秋田書店)連載)で完全復活を果たすのである。
 
 前置きが長くなり過ぎてしまった。
 やっと、「ブラック・ジャック」 である。

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 すでに、この作品の評価は定まっており、それ以上にボクがいうべきことは何もないので、ボクはいままで、この作品を読む気にはなれなかったのである。

 それに、同じ秋田書店のコミックス(単行本)のシリーズである 「サンデー・コミックス」 のカバーデザインのクオリティ(その重厚な感じと威厳の高さ)に比べて、後発のシリーズである 「少年チャンピオン・コミックス」 のカバーデザインのあまりにも軽過ぎて中身が薄い感じが、ボク好みではなかったからでもあるのだ。
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 いや、それ以上にこの作品をとっつきにくくさせているのは、全25巻という圧倒的な巻数と、全編が短編であるというその数の多さ(全234話)で、一体どこから手をつけて読んでいいのか、皆目見当がつかなかったからなのである。
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 連載開始から46年を経たこの日(2019年5月24日(金))、仕事帰りの地下鉄を地元駅で降りずに乗り越してしまい、反対車線に乗り換えて帰宅したボクは、そのために、帰り道、「ブックオフ」 の前を通ることになる。
 そして、店頭に設置されていた100円均一(税別)の棚の中に並べられていたコンビニ・コミックスの中にあった7冊の 「ブラック・ジャック」 を何気なく手に取りパラパラとめくっていたら、あることに気づいたのである。
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 それは、見開きの状態で見た時のこの作品のコマ運びが、実に流麗かつ巧みであり、また、その描線も実に充実していて、この作品の人気が再びこの作家の画力をより高い地点まで押し上げていたことへの〝発見〟だったのだ。

 そうか!! 手塚治虫は、この時、ノリにノッていたんだ!!

 あらためて、絵師である手塚治虫の画力に感嘆した、というよりも驚嘆したのである。
 劇画隆盛の中、そのインベイジョン(侵略)が少年マンガ誌に進行する流れに拮抗して、

 177.png週刊 少年サンデー 52 1969年12月21日号(表紙 “ターゲット” 園田 光慶)
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 その丸っこい描線を捨てることなく維持して到達したこの作家の画力のレベルの高さに、いまようやく気がついたというわけなのである。
 それを可能にしたのは、やっぱり、ブラック・ジャックというキャラの勝利であるという気がするのだ。
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 くどいけど、そのことに気づくきっかけとなったのは、降りる地下鉄駅を載り越した結果訪れた 「ブックオフ」 での、まったくもって魔がさしたとしか思えない、食わず嫌いだった「ブラック・ジャック」との遭遇なのである 。

 それにしても、この作家の、海と波、雷や暴風雨、それに、太陽を白く描いたり黒く描いたりと多彩な自然現象の描写力には、やっぱり脱帽だ。
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 ありがとう、手塚治虫は手塚治虫。
 あなたは、神様なんかではなく、素晴らしい画家でした。

 そして、この作品で展開されたあなたの絵柄は、いまあらためてその高い画力でボクを大いに満足させ、そして、その描線に溺れる歓びを与えてくれました。
 よって、ここに、感謝状を授与させていただきます。
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by misaochan3x7 | 2019-06-02 23:04 | まんが道(みち)


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