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「死ぬ気まんまん」 佐野洋子。そして、ボクの奥さんのこと。

「死ぬことが間近になったら、死んだらお金はかからないということに気がついた。
部屋をぐるりと見わたすと、全部買ったものばかりである。茶碗から箪笥、横に壁が見えたから家も買ったのである。」

「死ぬ気まんまん」 (佐野洋子:著/光文社/2011年初版第1刷) より。

「死ぬ気まんまん」 佐野洋子。そして、ボクの奥さんのこと。_e0358504_10295058.jpg
2010年11月に癌で逝去した佐野洋子氏 (絵本作家、エッセイスト) が2008年から2009年に 「小説宝石」 にかけて書いたエッセイの単行本。
へそまがりで毒気たっぷりな氏らしい痛快で刺激的なタイトルである。
巻末の関川夏央氏の一文も佐野洋子氏の生涯と人となりを知る上で秀逸。本質を漏らすことなくすくい上げる手腕はさすがである。
親族の多くの死を家で看取った経験者である彼女の死は、病院でだったようだ。

没後11年目にしてこの本のこと、いや、そもそも彼女のことをちゃんと知ったのは、やっぱりへそまがりで毒気たっぷりの心理学者、著述家にしてジェンダーの論客である小倉千加子氏の著書の中で佐野洋子氏のことを読んでからのことである。
今年の4月頃のことなのだ。
それまでは、小川洋子(作家)と佐野洋子に区別さえつかなかったのである。

そして、上記の記述だ。

「死ぬことが間近になったら、死んだらお金はかからないということに気がついた。
部屋をぐるりと見わたすと、全部買ったものばかりである。茶碗から箪笥、横に壁が見えたから家も買ったのである。」


2年前の夏、ボクの奥さんが急逝してひとりになった時、まさに家中のボクの身の周りにあった物は、奥さんが買ったものばかりだった。
冷蔵庫、洗濯機、掃除機、食器棚、衣装箪笥、食器類、布団、カーテン、下着、工具類、植木鉢。
おまけに、公共料金の契約も。
いま住んでいるこの家でさえ、住宅ローンの頭金は、彼女の実家に支えてもらったものなのである。
ボクが自分で買ったのは、私服と机と椅子とソファーと本、CDくらいのものだ。
まったくもって、彼女の庇護でここまで生きてきたわが人生であることを思ったのだった。


by misaochan3x7 | 2021-05-30 10:24 | 奥さんとわたくし


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